お知らせ

雇用保険制度研究会より中間整理が公表されました(2023/5/15)

5月12日、雇用保険制度研究会より、「雇用保険の給付と負担の在り方」などの現状の分析や論点整理に関する議論の結果を取りまとめた中間整理が公表されました。

本中間整理は、労働者の雇用のセーフティネットとしての役割を果たしてきた雇用保険制度に様々な雇用政策的な給付が追加される等した結果、複雑な仕組みの制度となり、他方、コロナ禍における雇用調整助成金の支出増が雇用保険財政のひっ迫を招き、給付と負担の在り方を検討する必要性が指摘されたため、本来雇用保険制度が果たすべき役割や保護すべき対象は何か、考えるための検討の視点を整理し、今後の制度運営を考えるための材料や選択肢を提示するものです。

総論では雇用保険制度をめぐる考え方や制度をとりまく労働市場等の変化に関する内容が、また各論では雇用保険制度から支給している主な給付ごとに、足下の課題と研究会委員から示された検討の視点が、整理されています。

主な内容を抜粋して紹介します。

【総論】
雇用保険制度を構成する考え方、構造
・雇用保険では「自らの労働により賃金を得て生計を立てている労働者(生計維持者)が失業した場合の生活の安定を図る制度」という考え方をとっている
・「失業」という保険事故は、発生率等について事前に一定の推定を行うことが困難。一方で、失業の発生はマクロ経済情勢の影響を受けており、好況時と不況時といった一定の時間経過の中でリスク分散されているとも考えられる。さらに、失業状態からの脱却は求職者個人の意思や努力にも依存するため、積極的に脱却しようとしないモラルハザードを招くおそれがある
・雇用保険における「失業」とは、単に職業に就いていないという事実のみならず、労働の意思・能力があるにもかかわらず職業に就くことができない状態を意味

雇用保険制度をとりまく労働市場や社会経済情勢の変化
・雇用調整助成金について様々な特例措置が講じられ、積極的に活用された。特に宿泊・飲食サービス業や卸売・小売業の中高年の女性パートや学生バイトを中心に生じ、雇用保険の適用対象となっていない労働者についてもセーフティネットの必要性があったことが示唆される
・また、中長期的な労働市場の変化をみると、主に非正規雇用による女性や高齢者の労働参加率の高まりにより、労働力人口は増加傾向にある。賃金の動向は、女性労働者の賃金水準が伸びる一方で、男性の40代~50代前半の正規労働者は低下傾向である。また、共働き世帯数は専業主婦世帯数の2倍を超えており、世帯の収入に占める女性配偶者の収入の割合は増加している

雇用のセーフティネットとしての雇用保険制度の在り方
コロナが労働市場に与えた影響や中長期的な労働市場の変化を踏まえ、雇用保険制度が雇用のセーフティネットとしてどうあるべきか、雇用保険制度がカバーすべき労働者の範囲をどう考えるかについて、様々な検討の視点が示された(以下では何点か抜粋して記載)
・社会保険方式でセーフティネットを整備することの意義
・「同種類の危険にさらされている集団」の範囲
・現行の適用対象労働者への影響
・失業以外の保険事故に対して支給される給付

【各論】
基本手当等
 → 所定給付日数を伸ばすことには慎重になるべきではないか
 → 給付制限期間を撤廃することには慎重であるべきではないか
 → 失業状態から積極的に脱却しようとしないモラルハザードが生じるおそれがあることを考えると、保険制度の適切な運営という観点からオンラインによる失業認定をどう考えるかを検討すべきではないか。また、失業認定と職業相談が有効に連携することが再就職促進のために重要

教育訓練給付
 → 「人への投資」の目的は、経済政策の側面がある。雇用保険のみが担うのではなく、省庁を超えたもう少し幅広な施策でやるべきではないか

育児休業給付
 → 就業継続の観点から、時短勤務を選択した場合の給付の創設が考えられるのではないか

求職者支援制度
 → リスキリングの観点から、経験職種の中でスキルアップするために求職者支援訓練を活用することも重要ではないか

【おわりに】
・何が基本的・根幹的目的なのか、また、セーフティネット以外の雇用政策的な色彩を強めていくのか、それとも制度をスリム化していくのか、引き続き議論が必要。さらに、持続可能な制度運営のためには、行政運営機関に必要なコストや財源の種類と財政的な実現可能性、EBPMに基づく効果検証の重要性なども考慮すべき
・雇用保険制度が果たしている役割を幅広く国民に共有し、国民がその意味を理解し、納得したうえで選択できるようにすることが大切