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今後の労働政策の課題に関する報告書(素案)が示されています(2023/1/27)

1月26日、第27回労働政策審議会労働政策基本部会にて、今後の労働政策の課題に関する報告書(素案)が示されています。

これは、「加速する経済・社会の変化の中での労働政策の課題~生産性と働きがいのある多様な働き方に向けて~」を大テーマとして、令和4年2月より行われてきた議論を取りまとめたもので、次のような内容となっています。

社会・経済の現状について
 (1) 産業構造の変化について
  → これからの社会構造や産業構造をどのように中長期的に展望し、活躍する人材をどう育成していくのかということが労働政策でも極めて重要な課題
  → 中堅・中小企業の生産性を高めていくことが必要であり、大都市圏以外の働く場を確保していくことも重要

 (2) 多様な人材の労働参加と企業の成長について
  → 全員参加型のダイバーシティ社会を実現していくことが重要
  → アンコンシャス・バイアスという言葉にあるように、社会全体の課題として、性別役割分担意識やネガティブな思い込みをどう払拭し、多様な人材を評価し活用していくのかという点も重要
  → 社会保障制度や税制等について、働き方に中立的なものとしていくことが重要

 (3) 労働市場の変化について
  → 内部労働市場だけでなく、外部労働市場の機能も活用しながら、産業構造の変化に柔軟に対応でき、かつ回復力を持つ、持続可能な労働市場の構築が必要
  → 労働市場において人材を確保するためには、賃金など労働条件を改善することが重要であり、また、人材の定着のためには適正な評価・処遇を行うことや労働者のエンゲージメントを高めていくことが重要
  → 企業において転職者などの人材を受け入れていく体制が重要

 (4) 労働者の意識・企業の求める人材像の変化について
  → 企業は、経営戦略として、社会経済の変化に対応する必要性や、企業としてどう変わりたいのか、そのためにはどういった能力や技術が必要で、何を学ぶべきなのかといった具体像を労働者に説明することが必要
  → 労働者個人も変化を前向きに捉え、新たなスキルを身に付けられるよう、リスキリングを意識していくことが重要
  → 変化に柔軟に対応できない労働者に対しては、企業は変化に対応する必要性を丁寧に説明し、マインドセットを作りながら、実践的な学習機会を創出するなどし、リスキリングの支援やスキル取得による評価の明確化等を働きかけていくことにより、こうした人材を増やしていくことが重要
  → 1つの会社の中で育っていくのではなく、自分自身のキャリアをどう作るかに重きを置く労働者も出ており、キャリア自律が重要となってきている

働き方の現状について
 (1) 生産性の向上に向けた雇用管理について
  ・人材育成
  → 企業固有のスキルをOJTで身に付けることが日本企業の強みだったが、大きく変化していく産業構造に柔軟に対応していくためには、デジタル技術のような、企業横断的なスキル、新しいスキルに投資することも、企業に新たな付加価値をもたらし、成長していくためにも重要
  → 職業人生も長期になることから、中高年のリスキリングを含めた能力開発も重要
  → 雇用区分にかかわらず、すべての社員、労働者に対して、公平・公正な人材育成の機会提供が必要
  ・デジタル技術への対応・リスキリング
  → 経営者に対するリスキリング・気づきの場の提供や相談窓口の設置、労働者向けのリスキリング支援等、国や自治体の支援も重要

 (2) 雇用管理について
  ・人事制度
  → 大企業でも転職入職者の割合が増加しており、IT化・DXにより人材が求められているため、中途採用者を迎え入れるための賃金体系などをどのようにしていくかも課題
  → デジタル技術の活用が求められるようになってきたことにより、これまでの企業内における上司や先輩の経験や、能力スキルの範囲を超える業務が増加
  → 既存社員へのOff-JT研修等によるリスキリングも必要であり、特に管理職のデジタル技術の知識や業務のデジタル化への理解が重要。労働の対価として適正に評価・処遇されることは大前提であるが、社員のリスキリングを推進するためには、新しいスキル取得による能力の向上や新しいことへの挑戦といった意欲も適正に評価・処遇することは、これまで以上に重要
  ・ジョブ型人事
  → ジョブ型人事と呼ばれるような、新しい人事制度については、企業が導入の目的や働く人に何を求めるかが重要
  → 中小企業やサービス業等の業種では、一人の社員が様々な業務を担うことも多く、企業規模や業種によってはジョブ型人事が馴染まない場合もある
  → 日本においてジョブ型人事制度を導入している企業であっても、①新卒採用後一定期間研修を行う、②人事異動は会社主導で行うなど、いわゆる「メンバーシップ型人事」と「ジョブ型人事」の間でバリエーションのあるものが多かった
  ・労働移動
  → 労働移動を進めていくには、外部労働市場の整備、企業横断的な能力評価の基盤整備、能力開発システムなどのセーフティネットの整備等、労働者が自らの意思で仕事を選択でき、個々の希望に応じて多様な働き方を選択できる環境整備が重要
  → 労働移動に中立的な人事制度設計が可能となるような取組みが必要
  → 弱い立場の人も円滑に労働移動できることも重要であり、労使双方が納得して労働移動が可能となる仕組みにについても考えていくべき
  ・労使関係
  → IT化で様々な働き方が職場に共存している中、職場実態を捉えながら運用上の課題対応を行うことが重要であり、現場を知る労働組合の役割・機能は今後も重要
  → 中長期的な社会対話と合意形成の場として、地域における労使などの社会対話の深化が重要

今後の労働政策の課題について
 (1) 企業に求められる対応
  → 経営者、マネージャー、現場労働者のすべてのレベルでリスキリングを含めた能力開発に主体的に取り組んでいかなくてはならない
  → 従来よりも現場の管理職のマネジメント業務が増加することから、管理職向けのマネジメント研修の実施や管理職の業務負担の軽減を図っていくことが重要
  → 非正規雇用労働者を含むすべての労働者に対して、労働条件の改善やキャリア形成につながる能力向上機会の確保が必要

 (2) 労働者に求められる対応
  → 経営者、マネージャー、現場労働者のすべてのレベルでリスキリングに主体的に取り組んでいく必要がある

 (3) 労働政策において今後検討すべき課題
  → 労働者が節目ごとにキャリアの棚卸しを行い、自分自身のキャリアを主体的に考えていくよう、客観的にスキルの見える化ができるようなツールや、キャリアコンサルタントによる助言・相談等の支援策を講じていくべき
  → 労働者の転職の参考となるよう、在籍型出向支援で得られた異業種間でも業務の親和性がある仕事の事例収集および事例紹介等を積極的に行い、転職しやすい環境整備を進めていくべき
  → 多様な労働者の事情に対応し、テレワークやフレックスタイム、勤務間インターバルなども含め、働き方改革を引き続き進めていく必要がある

 (4) 社会全体に求められる対応
  → 加速する経済・社会の変化の中では、企業による人材育成に加え、一人ひとりの労働者が自律的にキャリアについて考えていける方策を社会全体で危機感を持って考えることが必要